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「東伸」さんにて

●「自分の”天職”は、探して見つけるものではなく、自ら創りあげるものです。天職を見つけようとしている人は、結局、”転職”をくり返すだけで年を取っていきます」

「”雑草”という名の植物が存在しないように、”雑用”という名の仕事はありません。仕事にはすべて大切な意味があるのですが、心を込めずにやれば、それは雑用になります」

●こうした「社員心得集」を毎年の経営計画書に入れているのが岐阜県大垣市の株式会社東伸さん。毎年少しずつ書き加えて、今では180項目ほどあるという。

●今年ちょうど60周年を迎えた同社は、1950年設立。資本金 9,800万円、社員数69名の包装用加工機器メーカーである。

東伸(とうしん)の名は、大垣の人なら誰もが知っていると思えるほど名が通っている。目立つ場所に目立つ看板があるし、地元メディアに取り上げられる機会も多い。当然、経営内容もとても充実している。

●ある会でお目にかかり、大垣北高校の先輩・後輩という関係も手伝って、「武沢さん、一度うちの会社を見においでよ」と藤吉繁子社長に声をかけていただいたのがきっかけ。

●14年前に今の場所(大垣市野口)にハイテク工場を竣工された際、敷地面積は一気に3倍になった。この場所は、岐阜県大垣市が優良企業のメッカを目指し積極的に誘致を進めている大垣テクノメタル団地。
敷地面積13,200平方メートルにおよび、広大な敷地に本社と工場機能を集約した。

●新社屋、新工場がきっかけとなって顧客も一変し、そうそうたる上場企業が顧客になった。

だが、グーンと伸びるはずの業績が一向にあがらない。

「なぜだろう?」と調べてみたら、お客が一変したことで要求水準も上がっていたのだ。同業他社に先がけてどこよりも早くISO9001を取得し、技術と品質には自信があったのだが、顧客の要求がそれを上回っていた。結果としてクレームが続出し、業績の足を引っ張っていた。

●負けず嫌いの藤吉社長だったが素直に現状を受け入れ、2002年に出直しを決心する。まずは全社あげての意識改革への取り組みを開始したのだ。

「2002年というと8年前ですね、どんな意識改革をされたのですか?」
「そうねぇ。まず、武沢さんを前にして何なのですが…」
「ええ、何なりと」
「高卒の人に物足りなさを感じるものがあるとしたら、どうせ自分は高卒だからという気持ちがどこかにあって、問題に正面からぶつからないところがある」
「あ~なるほど、僕は高卒ですからね(笑)。でも、逃げたりはしませんよ僕は。まあ、一般的にはおっしゃる意味がわかります」
「私は学生のころ体育以外はオール5でしたから、分からない問題をそのままにしておくということが出来なかった」
「なるほど」
「そんな私ですから、クレームが続出したり、会社が思いどおりにならなかった時にはじめて、”勉強頭”と”仕事頭”は別だ、ということに気づいたの」

●そこで、藤吉社長自ら勉強頭を仕事頭に切り換えようと、意識改革に取り組んだ。その分野では日本一だと思われる指導者を求めて全国行脚し、通い詰めて猛勉強した。

二年目からは幹部や社員にも猛勉強を求め、徐々に意識改革をすすめていった。変わりたがらない古参の幹部社員たちは皆辞めた。その結果、幹部は半分いなくなった。そのせいで今の東伸の幹部は皆若い。
そして、ふと気づいたら社員ひとりあたりの研修教育費用は日本屈指の会社になっていた。

●「幾らぐらい教育費にお使いなのですか?」と尋ねると、「7万円」という答えが返ってきた。

「7万円ですか。全国平均が年に1~2万円ですから、たしかに多いですね」と私が言うと、「いえいえ。7万円というのは社員一人あたり一ヶ月に使う教育費です」
「え、じゃあ年間84万円。掛ける社員70名分ですか?」
「そうです。武蔵野の小山社長の本に、”世間の40倍の教育費を使っている会社”として紹介されています」

●どんなところで勉強されてきたのか聞いてみた。

松下幸之助さん、京セラアメーバ経営、日本経営合理化協会、株式会社武蔵野、日野原重明さん、志ネットワークなどの名がスラスラとあがった。

●その後、同社の森部長のご案内で工場見学させていただいた。

10数年もたっているとは思えないほどピカピカの工場で、いたるところに改善運動の足跡がある。
常時2億円以上あった在庫を数千万円に減らしたプロセスや、環境美化への取り組み、小集団活用の展開、社員のドリームマップ作成の実例など一時間たっぷりかけてご説明いただいた。

●「私一人が説明をお聞きするのはもったいない。だって私だと、単に”すごい”としか言えないから。でも、同じお話しを聞いて、同じ現場を目撃して、会社が劇的に変わる社長もたくさんいるはず。もう一度今日のような見学会をやらせて下さいな」

藤吉社長と森部長にそうお願いしてみた。すると、「人前でかしこまって話すのは得意でないが、座談ならいつでもOK」という言葉をいただいた。

製造業のハイテク工場を見学して学ぶことは実に多いので、業種業態に関係なく学びに行こう。

●おわかれ際に最後の質問をした。

「勉強頭と仕事頭が違うということでしたが結局何が違うのですか?」

ちょっと間があって藤吉社長はこう言われた。

「掃除できることと、素直さでしょう」
「掃除と素直?」
「そう、何が一番大事かっていうと結局そういうことでしょう。素直とは人の言いなりになるという意味じゃなく、ものごとをありのまま受け入れることだし、掃除や整理ができていなくては素直になりにくい。松下幸之助さんも晩年に”ようやく私も素直初段かなぁ”とおっしゃっていたほど、素直になるのはむずかしいことなんですよ」

私も、ものごとを都合の良いように解釈する癖があるので、素直さ初段めざそうと決意し、大垣を後にした。

★株式会社東伸 → http://www.cstoshin.co.jp/